天井が高いと、空間が広く感じる。これは私だけだろうか、いや、私だけではない。

「思ってたより、高っ・・・」

私がこの部屋に入った時の第一声だ。なんせ3mはあるだろう、見知らぬ、天井。
この天井が、見知る天井になる瞬間はあるのだろうか。

この部屋には、ロフトがある。使い勝手は、住む人で決まる。
壁沿いの梯子を持ってみる。うむ、意外と重い。毎日移動するのは少し面倒に感じる。
当初はロフトを寝床にしようと思っていたが、ふと代案を閃いたのである。

梯子は壁沿いに収めたまま、ベッドを窓沿いに配置。
ここで寝ると決めたのだ。
そして居間の中心に、真丸なダイニングテーブルを置く。
ロフトと反対側の壁一面をスクリーンに見立て、プロジェクターで映像を流す。

今まで観た映画を、もう一回観てみる。
TVじゃない、スマホでもない大きな画面で観ると、感じ方が違う。
感動度(かんどうど)が違うのだ。
なんなら観なくてもいい、流しておくだけでもいい。
私は字幕無しのイージーライダーをぼんやり眺めながら、
スコッチをロックでちびちびと嗜む。
英語は全く理解できないが、なんとなくは分かる気がするし、
なにより嗜みたい。嗜んでみたい。

そう、居間には、余計なものは置かない。
だが、物の一つひとつには拘る(こだわる)。
値段ではない。自分にとって、収まるかどうか、だ。
その拘った(こだわった)物たちが部屋に収まると、私だけの空間の出来上がりだ。
自然色の床は、そのためにあるのだ。

ロフトは、荷物置きなんて野暮な名前では呼ばせない。
私の、大人の秘密基地だ。例えば愛する本達を、背の低い本棚に並べてみる。
並んだ本を眺めると、まるで私の鏡のように感じる。

秘密基地へは、そうそう行くものではない。
梯子を掛けるのは少々面倒だが、なんせ秘密なのだから、
簡単に出入りできちゃあ興覚めだ。
なんなら整理整頓もしなくていい。
子供の頃、薄暗い屋根裏部屋、漫画やゲーム、おもちゃに囲まれた雑多な空間。
少々埃っぽくても、いい。

普段暮らすのは、拘り(こだわり)抜いた物たちが配置された、機能的で洗練された居間。
たまに覗いてみる、自分だけの秘密基地。
二つの空間が同居する、MY SWEET HOME。
築も浅く、設備も充実した綺麗な物件だからこそ、
私が居住し、好みの"部屋"に仕上げることができるのだ。

一歩外へ出れば、静かな住宅地。
梅ヶ丘、世田谷代田の両駅を利用できる立地も頼もしい。
散歩がてら、羽根木公園で緑を感じられるし、
少し足を伸ばせば下北沢で人の多さに戸惑うこともできる。
刺激は、日々を豊かにする。

「思ってたより、高っ・・・」

このふと口をついて出た間抜けな言葉を、いつか笑えるように。
私は、ここに、住んでみたい。

～この物語はフィクションです～